スポーツ法及びエンタテイメント法における諸問題(2/2)

第2 諸外国の状況・国際的な動向

1 国際的な動向

国際的な動向として、本来であればWIPOやTRIPs協定等の関係を考察しなければならないが、本報告では主たるテーマたる権利制限又は報酬請求権に関連する部分のみ取り扱うものとする。
権利制限について考察する上で重要となるのが、3ステップテストである。TRIPS協定の 13条は、ベルヌ条約9条(2)を取り込んでおり、著作権の権利制限の上限を定めた一般規定として機能している。特徴としては、一般的な理解では、累積的である3つの基準をすべて満たさなければならないことが挙げられる。
第1ステップでは権利の制限が “Certain Special Cases” であることが求められる。この「特別な場合」の意義について、(a)限定された目的である必要があるという考え、及び(b)政策目的が特定されていれば良いという考えがあるが、WTOのDSB パネルは、(b)の立場を採らないことを明らかにしている。
第2ステップでは、「著作物の通常の利用を妨げない」ことが求められている。ここで、各国に「通常」の中に政策的考慮を読み込む余地が与えられているとみることができる。
第3ステップは、「著作者の利益を不当に害しない」という要請が働く。そしてここでも、「利益」「不当」という文言の解釈次第で、各国が政策的考慮を入れる余地がある。
以上みてきたとおり、特別なものでありさえすれば、政策的見地を入れる余地がある。よって、特定の著作物(客体)について権利制限を設けることも許容されうる。また、特定の著作物について強制許諾制度を設けること、すなわち報酬請求権化を行うことも許容されうると考えられる。

2 諸外国の状況

アメリカ合衆国著作権法107条に定められているフェア・ユース規定は、権利制限の一般条項規定である。また、ドイツ著作権法24条も「自由利用」を認めており、権利制限の一般条項と同様の機能を果たしている。
報酬請求権については、法案レベルではあるが、フランスの「グローバル・ライセンス」プロジェクトが2005年のDADVSI法策定時に議論された。グロ―バル・ライセンスはP2Pにおける非営利目的のファイル共有を適法にする代わりに、ブロードバンド・インターネット登録料金を取り、それをアーティストのための助成金にするという内容であったが、結局廃案になっている。

第3 日本の現状の問題点、日本が抱える課題

上述のように、報酬請求権は立法論である。そのため、権利制限にかかる現状についてのみ言及する。
権利制限規定については、現行法の解釈論として、(1)権利制限規定の拡大解釈・類推解釈するアプローチ、(2)本質的特徴の直接感得性がないとして権利侵害を否定するアプローチ、(3)著作権者の黙示的許諾があるとして侵害を否定するアプローチ、(4)権利濫用法理を用いるアプローチなどが採用されていると考えられている。
なお、権利制限の一般規定導入にかかる議論については、平成21年文化審議会著作権分科会法制問題小委員会権利制限の一般規定ワーキングチームによる報告書が提出されており、以下の利用類型に応じて立法の是非を論ずべきとの提案がなされている。類型の分類としては、(1) いわゆる「形式的権利侵害行為」(利用の質または量が軽微であり実質的違法性がないと評価される行為)、(2) いわゆる「形式的権利侵害行為」と評価するか否かはともかく、その態様等に照らし権利者に特段の不利益を及ぼさないと考えられる利用、(3)既存の個別規定の解釈による解決可能性がある利用、(4)特定の利用目的を持つ利用が挙げられている。(1)及び(2)については権利制限規定として導入することが考えられるとの方向性が示されたが、(3)(4)については慎重論をとっている。

第4 日本のスポーツ、エンタテイメント法が進むべき方向性

前述したとおり、現行著作権法はコンテンツ流通という点で限界があると考える。著作権法は、情報通信技術の発達著しい昨今において、逐次的な改正では対応できなくなってきているからである。
そして、現状においては相反するように思われる2つの要望を同時に叶える制度設計をすることが、日本のエンタテイメント法が進むべき方向性であると考える。
その2つの要望とは、第一に、エンタテイメントにおいて煩雑な権利処理を簡便化して流通の促進を図り、権利を長期的に運用したいとする要望である。そして第二に、より自由に使用したり二次創作等の利用をしたりしたいという要望である。

第5 具体的な立法提案

1 結論

特定の著作物について報酬請求権のみを認めるという制度を定立すべきである。それに際しては、一元化されたデータベース窓口が必要であると考える。
かかる制度内容としては、第一に、特別法の保護下におかれる著作物と著作権法の保護下におかれる著作物という区分を設ける。第二に、登録制度を設け、任意に登録された著作物のみを特別法の保護下におく。そして第三に、特別法の保護を受ける著作物の利用を現行著作権法の権利制限の範囲よりも広く認める代わりに、報酬請求権のみを認めるものとする。
以下、具体的な内容を検討する。

2 制度の検討

まず、第一の特別法の保護下におかれる著作物と著作権法の保護下におかれる著作物という区分を設けることにより、3ステップテストの第1ステップをクリアする。
また、登録は全著作物に強制されるものではなく、あくまで著作権者が自発的にこの制度を選択するものであるから、無方式主義にも反しないものと考える。つまり、現行の著作権法に基づく諸権利で不満のない権利者(ないし創作時点における著作者)は現行著作権法の保護下におかれることになる。
第二の登録制度を設け、登録された著作物のみが特別法の保護下におかれることに関しては、権利期間を設けて更新を行うようにし、登録及び更新には小額の費用を必要とするが、更新を続ける限りにおいて権利が守られるということを提案する。このようにすることで、著作権者側の登録するインセンティブとして、登録の更新により半永久的に権利の延長ができ、存続期間満了後も報酬請求権が持続する。理論上は、登録と同時に商用に適合的な新しい権利が発生し、同時に、著作権法の保護下から外れるという建てつけになる。
なお、登録保護期間が切れた後の扱いについては、記載がない場合と著作権が消滅してパブリックドメインになったと見做すことが考えられる。登録後更新されなかった著作物については商業的採算が合わなくなったものであろうから、利用を行いやすいようにパブリックドメインにして文化還元をすることが文化の発展に寄与するといえる。
第三の報酬請求権について、供託に付せば著作物を使用できるようにするという措置が考えられる。このようにすることで、登録済みの著作物は一定の対価を支払うことで著作権者の許諾を経ずに利用できる。
また、本特別法保護下にある著作物の違法な利用に対しては、登録へのインセンティブとして、非親告罪化することも考慮すべきであろう。なお、翻案については一概に判断ができないため、非親告罪化しないことも考えられる。また、いわゆる「居直り侵害」については逸失利益を超えて懲罰的損害賠償を課すことも検討する。

3 ライセンス契約との比較

本制度は、著作権者の意思で権利内容を設定しているという意味で、ライセンス契約と類似している。したがって、定形化されたフォーマットを作成すれば、本制度と同様の効果を期待できるのではないかとも思われる。
しかし、フォーマットの提供のみにとどめずに制度化することにより、窓口を一元化できるという利点が発生するといえる。詳しくは後述するが、著作権の帰属が統一的なデータベースで把握できるようになるという点でライセンス契約とは異なる。利用者にとっては公示性が向上するため、権利者を探す調査コストが格段に下がることになるといえる。

4 データベースの創設

先述したように、著作物の登録窓口の一元化が可能であり必要である。
仮に、利用料相当額を供託に付せば著作物を使用できるようにし、適法な利用態様である限り著作権者は利用拒否ができないのであれば、流通量は多くなると考えられる。特に、少額決済システムも同時に構築すれば、些少な利用からも収益を確保できることになる。
こうすることで、新しい創作を阻害することなく、無許諾利用に対するエンフォースメントをすることができるようになると考える。
なお、応諾する場所は一つに限定しても著作権管理のサービスや運用をする窓口は複数存在するというあり方が想定できる。つまり現在は混同されがちな著作権管理代理業務とデータベース業務を分離することを意味している。ここで代理業務と呼んでいるものは、あるコンテンツを作成する際に、権利のクリアリングを行い、または、利用のための手続きを代行する業務のことである。このようにすることで、代理業務間の競争が予想され、サービスの向上と多様化が期待される。

5 本制度の課題

上記で言及した以外の本制度採用にあたっての課題として、本制度をワンストップ・ソリューションとするための著作者人格権・隣接権との整合性確保という点があげられる。著作権法50条・43条などとの関係をいかに把握すべきかという問題である。
また、権利侵害へのエンフォースメントとの関係では、3ストライク制度の是非を含めてプロバイダ責任法の改正を検討しなければならないであろう。